キミは聞こえる

「小野寺って人、やっぱり優しいんだね。ちょっと尊敬した」

 本心だ。

 やはり泉の目は正しかったらしい。彼の親切心は紛う事なき真のものだ。

「尊敬」
「うん」
「ふぅん……」

 なんだその意味深な相づちは。私だって尊敬くらいするぞ。

「小野寺のこと、どう思ってんの?」

 質問の意味がよくわからない。

「どうって?」
「……説明しないと、わかんねぇ?」

 わからないから訊いているのだ。

 それに、わからないことだったら、こちらにだってあるんだぞ。

「桐野君こそ、栗原さんのことどう思ってるの?」
「え……っ」

 桐野のことだ、友達を放っておけない気持ちが強すぎる故、電話してきたのだろう。多分、浴衣の色なんて電話をかけるための口実。

 佳乃のことが一番の目的だったことはわかっているのだ。

 わかっているのに、訊いてしまった。

 他意があるんじゃないか―――そんなふうに、考えてしまって。

「ただの、友達だ」
「じゃあ私も、ただの隣のクラスの人」
「なんだよそれ」
「それ以外に言いようがない」

 本当にただの友達なのかな。なんだか、信じられない。

 またちょっとの沈黙が泉の心をざわつかせる。

 おかしい、と思った。

 どうしてそんなことが気になっているのだろう。別に、桐野が佳乃をどう思おうと勝手ではないか。

 彼は佳乃に害を為さない人間だ。
 それだけわかっていれば、充分ではないのか。

 ―――いや駄目だ。

 真っ向から反対姿勢を取るもう一人の自分がいた。
 納得いかない。

 ……何故?

 もやもやしたものが、ますます泉を混乱させる。

「そうか……」
「……うん」

 長い間が重い。

 そろそろ切り時かもしれないと思った。電話越しの無言の時間が長ければ長いものであるほど、要らぬ言葉が浮かんでは膨らんで泉の頭を揺さぶり始める。

 ドアの向こうから階段を上ってくる足音がした。それは泉の部屋の前で止まった。
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