キミは聞こえる
部屋に戻り、ピアノの蓋を閉めて勉強机に向い合う。宿題は終わっている。テスト範囲のテキストも終わって、丸つけまで完璧だ。あとは不安に感じる箇所をピックアップしてノートにまとめるだけである。
が、作業に取りかかろうとしたそのとき、落ち着きを取り戻しつつあった胸がふたたび騒ぎ出した。
おかげでどうにも手に着かず、気づけばシャーペンを持っていた手には携帯が、さらには桐野の番号を呼び出していた。
親指を受話ボタンに乗せたまま、固まる。
(……なんて理由をつけて電話すればいいの)
小野寺のことは訊いた。佳乃のことは友達だと言われた。
ならばもう、これといって訊きたいことはない。
……はずなのに、指も目も携帯から離れようとしない。
(ただなんとなく電話してみた、でなんとかならないかな)
……それが許されるのは桐野だけか。
自分はやつのそういうところが好いていなかったはずだ。これという理由もなく名前を呼ぶのが許せなかった。
だから、プライドの問題として、泉がやるわけにはいかない。
なにか口実になるものはないかないかと探し――そうだ、ピンク! と思いつく。
美遥に了承をもらえたことを報告すればいいのだ。
泉は意気揚々とボタンを押した―――けれど、
「あれ、通話中…?」
繋がらなかった。
一度切って、少し待って、もう一度押す。
………またもや話し中。
三度目の正直と思い、今度はもう少し長めに間を取って、もう一度掛かけてみた。
「やっぱり話し中か」
三度駄目だとさすがに諦めが付く。誰かと話し込んでいるのだろう。友達が多いヤツは夜も忙しいらしい。
短く息を吐いて携帯の電源を切る。
後ろのベッドに放って、泉はシャーペンの頭をかちかちと押した。教科書とテキスト、テキストの解答冊子を広げてノートに題を書き込む。
いつもならその作業の間に頭が勉強仕様に切り替わるはずが、そのときはいつになく頭に入らず、何度も消しゴムの世話になることとなった。
が、作業に取りかかろうとしたそのとき、落ち着きを取り戻しつつあった胸がふたたび騒ぎ出した。
おかげでどうにも手に着かず、気づけばシャーペンを持っていた手には携帯が、さらには桐野の番号を呼び出していた。
親指を受話ボタンに乗せたまま、固まる。
(……なんて理由をつけて電話すればいいの)
小野寺のことは訊いた。佳乃のことは友達だと言われた。
ならばもう、これといって訊きたいことはない。
……はずなのに、指も目も携帯から離れようとしない。
(ただなんとなく電話してみた、でなんとかならないかな)
……それが許されるのは桐野だけか。
自分はやつのそういうところが好いていなかったはずだ。これという理由もなく名前を呼ぶのが許せなかった。
だから、プライドの問題として、泉がやるわけにはいかない。
なにか口実になるものはないかないかと探し――そうだ、ピンク! と思いつく。
美遥に了承をもらえたことを報告すればいいのだ。
泉は意気揚々とボタンを押した―――けれど、
「あれ、通話中…?」
繋がらなかった。
一度切って、少し待って、もう一度押す。
………またもや話し中。
三度目の正直と思い、今度はもう少し長めに間を取って、もう一度掛かけてみた。
「やっぱり話し中か」
三度駄目だとさすがに諦めが付く。誰かと話し込んでいるのだろう。友達が多いヤツは夜も忙しいらしい。
短く息を吐いて携帯の電源を切る。
後ろのベッドに放って、泉はシャーペンの頭をかちかちと押した。教科書とテキスト、テキストの解答冊子を広げてノートに題を書き込む。
いつもならその作業の間に頭が勉強仕様に切り替わるはずが、そのときはいつになく頭に入らず、何度も消しゴムの世話になることとなった。