キミは聞こえる
 代谷の言葉が胸に染みる。

 染みて、染みて、深いところを貫いて、破れたところからますます好きが溢れ出る。

 滅多に優しい言葉をかけてくれない―――どころか、口数がきわめて少ない代谷だからこそ、ふとしたときにかけてくれる飾り気のない言葉が桐野の背中を震わせる。

 祖母の言葉を通訳してくれたときもそうだった。

 この間もそう。
 自信のない俺の言葉を聞いて、笑うことも小馬鹿にすることもせず、強い人だと言ってくれた。

 ふと、思う。

 千紗や、響子が代谷に惚れ込んでいるのは、もしかすると自分と同じ理由からかも知れないと。


 揺るがない自分を持ち、自分の言葉を発する。

 見せかけだけの偽りの情に流されず、猫をかぶらず、人と接する。

 そんな彼女だから、栗原を取り囲む悪い噂にも流されることなく彼女の内面を見抜き、真摯に思うことができたのだ。

 そうでなければ彼女に対して苛立つことなど出来ようはずがない。

「……さんきゅーな」
「べつに。こっちこそ、ありがとう」
「なにが?」
「放課後…設楽って人から、助けてくれた」


 設楽。


 ことごとく代谷に迫ってくるやらしい男。

 思い出しただけで虫酸が走る。
 どうしてあんな男が人気なのかまるで理解が出来ない。女子は男の顔しか見ていないのだろうか。

「腕、なんともないか?」
「うん」
「そうか。……なぁ」
「ん?」
「前にな、設楽が俺に言ったんだ。自分と代谷は同類だって。どういう意味かわかるか」
「!?」

 かすかに息を呑む音がした。
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