キミは聞こえる
「どういうことなんだ」

 心なしか代谷の声は震えていた。反対に、桐野の声には力が入る。

 なにをわけのわからないことを言っているのだ。そもそも同類とはどういうことだ。

 代谷と設楽にしか理解し得ない共通点でもあるというのか。

「どういうことなんだ、答えろ」
「桐野君を傷つけたくないから」
「俺がわかるように説明しろって言ってるんだよ」
「私を見て、私と話して、なにかおかしいって少しでも感じたら、私の近くには来ないで欲しい」

 わからない。
 代谷がなにを言っているのかまるでわからない。
 混乱を超えて頭痛が桐野を襲う。

「……それって、遠回しに、俺のこと嫌いだって言ってるのか?」

 言葉にして、喉が震えた。

 それで肯定されたら俺は、夢もなにもかもを捨てて、いますぐこの窓から飛び落ちよう。

 そんな下らないことを、一瞬、本気で考えた。

「そっ、そんなことない」
「ならどうして近くにいるなとか、そんな……っ!」

 酷いことを言うんだよ……。

 死ねと言われてることと今の俺には同義語に聞こえるんだからな。

「……ごめん、私も、上手く言えない。なに言ってるか、だんだんわからなくなってきた」

 力ない声がする。

 また、はぐらかされるのだろうか。

 保健室で設楽と話していた内容を、たいしたことではないからと誤魔化したあのときと同じで―――

 と、そこでふと、

(また、設楽……?)

 代谷が言葉を濁すとき、そこには設楽の存在があることに気づく。
 するとそこで、妙な違和感が桐野の胸をかすめた。

 いいや、ちがう。……設楽のときだけじゃない。
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