キミは聞こえる
『泉には内緒だからね』

 メッセージはたったの一文で、添付画像はすでに半分ほどが見えるようになっていた。

 そこに写っていたもの、それは―――

 団子頭に、口には歯ブラシをくわえた私服姿の代谷だった。

 友香姉だから許すのだろう、クラスではなかなかお目にかかれない貴重な撫子の微笑みがそこにはあった。


 入学当日からそこかしこで囁かれていた理事長の孫―――正確に言うならば孫のはとこだが、詳しく知っている者は少ない―――の器量の良さ。

 女性らしいあごの丸みとほっそりとした首、少なすぎず多すぎず肉のついた頬、やや奥二重気味の真実のみを見据えることの出来る眸。

 笑うともっといいのに。

 それは桐野も思っていた。

 しかし当の本人は笑みどころかあらゆる感情をその顔に浮かべることが極端に少ない。

 栗原と話しているときが多分、一番笑顔が多いと思う。

 桐野と一緒にいるときは不愉快な顔を浮かべられるか無表情のどちらかだ。

 こんな自然な笑顔を自分に向けてくれる日は果たして来るだろうか。
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