キミは聞こえる
 桐野を嫌っているわけではないが、桐野のために近づくなと代谷は言った。

 どういう警告なのだろう。

 設楽と同類とはどういうことか。
 代谷を同類と思う日など来るはずがないのに。

 あんな性根腐れまくった男に成り下がる代谷を想像できない。

 ……いや、代谷が言いたいのはそういうことではない……のかもしれない。

 ううん、きっと違う。
 彼女が言ったことはおそらくそういうことじゃないんだ。

 設楽の存在を心底嫌がっているし、あいつのせいで意識を失った。あのとき芽生えた恐怖はきっとまだ代谷の心から取り除かれてはいないだろう。

 設楽に嫌悪を抱かされた張本人がまさか設楽のようになるはずはない。


 ならば、それ以外でなにが同類となり得る………?


 湿った頭に窓から流れ込む風が冷たく、ドライヤーを止めて立ち上がる。この大事な時期に風邪でも引いたら悠士にまた鼻で嗤われる。

 鍵を閉めるため手を伸ばした、そのとき。


 ふと、ある写真に桐野の目が留まった。
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