キミは聞こえる
『悪い、今は話すのもしんどいんだ』
『体育館も蒸し風呂状態だけど、こう真上に太陽があったんじゃたまんねぇな』
『帰るのか?』
『ああ、午後からは別の部活が使うからな。桐野もだろ?』
『そうだ』

 間もなく校舎から着替えを済ませた次の使用部のやつらが出てくる。さっさと終わらせなければ。

『せっかく来たんだ。手伝ってくれるよな』

 にやりと笑いかけると、設楽は笑顔を引きつらせた。

『え、マジで?』
『乗りかかった船じゃん』

 二人でボールをカゴ周辺に集める。それを何度も腰を曲げ拾い上げる。

 汚れが体操着に移らないよう慎重に持ちながら、設楽が尋ねた。

『シュート練習してたのか?』
『ああ』
『そういやおまえ、この間の県大会、試合出てなかったよな』

 何気なくそう言った設楽の言葉が胸にぐさりと刺さった。

『……ああ』
『地区大会は出てたのに』
『コーチがそう決めたんだ。俺にはどうすることもできねぇよ』

 そう、どうすることもできないのだ。

 もっと、もっともっと力と技を身につけなければ、俺はいましばらくはベンチに座らせられたままだろう。


 ……理由は、わかっている。
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