キミは聞こえる
 フォワードでありながらことごとくシュートを阻止された。

 それも、一試合だけの話ではない。
 あたるチームそれぞれのキーパーにまるで心を読まれているかのようにボールを弾かれ、あるいは抱え込まれた。

 決勝戦に近づくにつれ、だんだんとシュートへの自信と意欲が萎んでいき、やがて大会中にもかかわらずトラウマのようにボールを蹴ること自体が出来なくなった。

 コーチはそんな桐野の心情を敏感に感じ取ったのだろう。

 県大会、桐野はレギュラーに据えられたままではあったものの、コーチの口から交代の声が上がることはなかった。

 だからこうして、練習が終わった後でも体力を限界近くまで削り、練習を重ねている。

 ……が、何度ボールを蹴っても蹴ってもゴールに当たるばかりで、一向に元の感覚が戻らない。

 焦る気持ちがますます桐野の頭を煮え上がらせ、つられて体中が熱くなっていく。

『まぁ不調のときだってあるよな。俺も県大でここぞってときのスリーポイントはずして先輩からまぁ睨まれた睨まれた』
『それなのによくそんなひょうひょうとしてられんな』

 設楽は肩をすくめた。

『だったらてめぇらが決めてみろって感じだったし。勝ったんだからはい終わり終わりってね。あんまデカイ声で言えねぇけど、ぶっちゃけ一番点取ったの俺だし。文句は言わせねぇよ的な』

 女子のようにちろっと舌を出して、設楽は最後の一個をカゴに戻した。

『サンキュ』

 いやいや、と手を振りながら置いていたカバンをふたたび肩に乗せると、設楽は尋ねた。


『おまえ、フォワードの稲森(いなもり)先輩に憧れてるだろ?』
『え――』

 何故、と思った。

 何故、こいつが知っているんだろう。

『大丈夫だ。おまえならやれるさ。先輩を超せる逸材にきっとなれる。お互い、頑張ろうぜ』

 去っていく設楽の背を見つめながら、桐野は思い出していた。
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