キミは聞こえる

 平和。 そこそこ。

 たしかに、父との生活は平和だった。
 波風が立つこともなく、穏やかな天候の下で毎日が進んだ。

 けれど、その毎日の生活の中に、笑顔はあっただろうか。

 思い出してなぜか頭がすうと冷えた。

 浮かぶ親子の風景の中に笑っている様子はわずかにも出てこなかったのだ。

 一人で食べるご飯。
 台所以外真っ暗な家の中。
 父の食事にラップをして、宿題をして、お風呂に入りながら帰宅した父がドアを開ける音を聞いた。
 短く会話をして、翌日の準備を整えて寝た。

 思えば、私は父とほとんど一緒の時間を過ごしていなかった気がする。

 はっとした。


 家の中が平和だったのはもしかして、

 役割や領域など関係なく、父との交流があまりにすくなかったから?
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