キミは聞こえる
 それはそうかもしれない。

 しかし、褒められているとは思えず、ちっとも喜べない。

 それはつまり……私は、自分をそうまでも、憂い嘆いているということなのか。

 このサッカー馬鹿のように、夢という不可解なもののため、悩み、涙し、あらゆる感情に頭をめちゃくちゃにして、立ち上がれないほど打ちひしがれたとしてもまだまだだと這いつくばって歩みを止めない、

 ……そんな日々に、私は焦がれているということか。

 それこそ、泉のもっとも嫌う面倒な生き方の代表格であるはずなのに……。


「動じないってことが、どれだけ物足りないことかわかる?」


 気づけばそんなことを言っていた。

 自分で愕いた。

「え?」
「私は、仙人みたいなすべてを超越した人間じゃない。何事においてもどっしり構えられて、冷静に物事を分析して、いつどんなときでも落ち着いて周囲を見れるとか、そんなに出来た人間じゃないの。私はただ、ある程度のところでそれなりにやっていられればそれでいいだけのやる気のないやつ」

 穏やかな航行の途中、いきなりの天変で荒波に呑まれそうになったり、

 平坦な道に突如として急な岩山がそびえ立ち現れるような、

 そんな面倒な道を進みたくはない。

 みんな何故目標を立てることが好きなのか。
 数字にこだわり続けるのか。

 どうでもいい。

 適当なところでぷかぷかしていればいいものを。

 慌ただしく騒がしい世の仕組みを泉は安全地帯からいつも冷めた目で眺めていた。

(だから、先生たちからも快く思われてないのかな……)

 理事長室でのことが思い出される。
 ただの被害妄想かも知れないと思いながら、しかしなかなか楽天的にも考えられない。



「代谷、変わりてぇの?」

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