キミは聞こえる
 虚を衝かれたように泉は黙り込む。

「……別に、頑張り屋になりたいわけじゃない。だけど、鈴南の人たちを見てると、栄美とは違うって思う」
「そりゃあテレビでも紹介されるようなお嬢様学校とは格が全然違ぇもん」

 お嬢様、か。

 鼻で嗤いたくなった。

「あんなとこ、外観だけだよ。立派なのは」
「? 代谷?」
「体面と成績に縛り付けられたプライド高いお嬢さまの集まり。今の学校に通い始めてから、いかにあそこが窮屈な場所だったのかを思い知った」

 もちろん、亜矢嘉や泉のような異種もクラスに二、三人は存在したが、大抵は五十貝のような鼻高、二嶋のような矜持がすべての連中ばかりが席を埋めていた。

 彼女たちが付き合っているのは友情による結びつきではなく、家のため。

 あるいは孤立を怖れての保身。

 そういった者の多くは中等部から入ってきた者や、編入生によく見られた。

 しかしそこにも佳乃のような純粋な友愛心は存在しない、と亜矢嘉は言っていた。

 基本、栄美に通う者たちの頭の中に成績以外のことなど入ってはいない。そうでなければあの学校ではやっていけないから。

「どうして他の学校に移らなかったんだよ」
「女子校のほうが安全だからって、父さんの希望」
「ああ、なるほど。だけどさ、窮屈だって感じながらどうして我慢できたんだよ」
「窮屈だってわかったのは、こっちに来てから。それまではあれが普通なんだって思ってた。というか、別に学校のことなんかあれこれ真面目に考えたこともなかったし。私の中で学校っていうもののありようが変わってきてるんだと思う」

 そして、たぶん―――泉自身も。

 ふいに肩に手が触れた。桐野と目が合う。

「賢くなりたいだけのヤツには不釣り合いかもしんねぇけど、代谷みたいに窮屈だったって感じてるやつには俺らの学校はちょうどいいんじゃね? ちょっと抜けすぎてるくらいなとこもあるけど」
「入学当初はいろいろとカルチャーショックで憂鬱な日々だった」
「あはは。だろうなぁ。でもさ、それもいい経験じゃん」


 夜更けに男子の部屋を堂々と尋ねていく二人を見逃せるくらいの器量は身についた。
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