キミは聞こえる
「なぁ、もう一つ訊いてもいいか」
「なに?」
「そんな息が詰まりそうな環境にずっといて、成績も周りのこともろくすっぽ気にしなかったおまえが、どうして栗原のことは気にかけてやるんだ? あっ、これは別にだからどうとかいう気持ちはないぞ」
桐野は手を振って、ただ気になっただけ、それだけなんだ、と繰り返した。
桐野がしたように橋の裏へと視線を向け、佳乃と初めて口を利いた合宿の夜のことを思い返す。
「……はじめは、ただ面倒そうな子だなぁって思ってた。でも、合宿のとき、一人にされそうになった彼女を見て、急に放っておけなくなった」
「同情心から、か?」
首を振る。
「全部が全部違うとは言えないけど、あのとき……彼女を通して私は過去の私を見ていたんだと思う」
自分に気づいて欲しい……
―――その思いをいつ、私は落としてきたのだろう。
拠り所のない悲しみを分かち合ってくれる者を、寄り添って手を握ってくれる者を、胸を掻きむしりたくなるほどに切望してしていた自分を、私はどこに置いてきてしまったのだろう。
気づけば無関心の着ぐるみに自分を押し込めて、頭のてっぺんからつま先まですっかり蓋をしていた。
「過去の、代谷」
「母さんが死んで、なにもかもが変わって、一人になって、はじめのうちは私だってちゃんと辛かったし、悲しかったし、寂しかったのに、それがどうしてだろう……いつの間にかどうでもよくなってた。
だけど、栗原さんはちがった。過去のことがあっても、まだちゃんと現実にしがみついてて、人との繋がりを諦めてなかった」
鬱陶しくてならなかった視線も、彼女なりの救助信号だったのだと気づいたら、見て見ぬふりなど出来なかった。
すがるような彼女の瞳と視線が交わったとき、母の死を受け止められず、座り込んで一人泣き続けていたかつての自分がたしかに見えた。
助けて、傍にいて、誰か……、
そんな声がたしかに聞こえたのだ。
「なに?」
「そんな息が詰まりそうな環境にずっといて、成績も周りのこともろくすっぽ気にしなかったおまえが、どうして栗原のことは気にかけてやるんだ? あっ、これは別にだからどうとかいう気持ちはないぞ」
桐野は手を振って、ただ気になっただけ、それだけなんだ、と繰り返した。
桐野がしたように橋の裏へと視線を向け、佳乃と初めて口を利いた合宿の夜のことを思い返す。
「……はじめは、ただ面倒そうな子だなぁって思ってた。でも、合宿のとき、一人にされそうになった彼女を見て、急に放っておけなくなった」
「同情心から、か?」
首を振る。
「全部が全部違うとは言えないけど、あのとき……彼女を通して私は過去の私を見ていたんだと思う」
自分に気づいて欲しい……
―――その思いをいつ、私は落としてきたのだろう。
拠り所のない悲しみを分かち合ってくれる者を、寄り添って手を握ってくれる者を、胸を掻きむしりたくなるほどに切望してしていた自分を、私はどこに置いてきてしまったのだろう。
気づけば無関心の着ぐるみに自分を押し込めて、頭のてっぺんからつま先まですっかり蓋をしていた。
「過去の、代谷」
「母さんが死んで、なにもかもが変わって、一人になって、はじめのうちは私だってちゃんと辛かったし、悲しかったし、寂しかったのに、それがどうしてだろう……いつの間にかどうでもよくなってた。
だけど、栗原さんはちがった。過去のことがあっても、まだちゃんと現実にしがみついてて、人との繋がりを諦めてなかった」
鬱陶しくてならなかった視線も、彼女なりの救助信号だったのだと気づいたら、見て見ぬふりなど出来なかった。
すがるような彼女の瞳と視線が交わったとき、母の死を受け止められず、座り込んで一人泣き続けていたかつての自分がたしかに見えた。
助けて、傍にいて、誰か……、
そんな声がたしかに聞こえたのだ。