キミは聞こえる

四章-7

 塀とビニールハウスに挟まれた路地は薄暗い。

 見上げた空は狭く、皮膚に感じる温度がここだけ異様に低く感じられた。

 道を抜けた先になにがあるのか、すこしばかり不安を覚えてしまうくらいだ。

 ……あんなこと話さなければよかった、と後悔する。

 何故、桐野に打ち明けてしまったのだろう。

 物足りなかったなんて言わなきゃよかった。
 栄美での日々なんて思い出さなければ。

 いつものようにさっさと話を切り上げていれば、桐野の隣でみっともなく涙をこぼすこともなかったのに。


 近頃、殊に感情的になっている気がする。


 栄美のことを、向こうにいた頃の日々を振り返りどうだったのかと考えては胸が締め付けられる。

 そのうち鬱ぐ思いに囚われて、動けなくなる。

 ……あいつのせいだ。

 桐野が……私のことなど気にするからいけないのだ。

 心の中で桐野に八つ当たりをする。

 あいつが佳乃のことを尋ねてさえいなければ、合宿のことも思い出さずに済んだのに……っ。

 ―――いまさらあれこれ言ったとて仕方のないことだ。
 忘れて、翔吾のことに切り替えよう。

 路地を抜けると、両脇を田んぼに挟まれたあぜ道に出た。

 砂利を踏みならしながら進み、ひび割れの目立つコンクリートに泉は立った。

 ごく普通の一戸建てから少し離れたところ、二階建てのどれも似たようなアパートが三軒並び立っているのが見えた。

(あそこのうちのどれか、か)

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