キミは聞こえる
車の走行音が聞こえた。
道の端に寄ると、シルバーのレクサスが泉の前を颯爽と走り抜けた。運転手は、まだ四十前だろうスーツに身を包んだ若い男だった。
車が走っていった方向に泉も歩を進める。
と、ほどなくして車は停止した。
よりによって泉が向かわんとしているアパートの前、道の端すれすれに車を駐めると、エンジンはかけっぱなしのまま、男は滑るように運転席を降りてきた。
迷うことなく真ん中のアパートへ足を向ける。
規則的な足取りから、通い慣れている様子が窺える。
鍵もかけずに出て行ったから、部屋に入るほどの用事ではないのだろうと思ってはいたけれど、それにしてもびっくりするほどの短時間で男は車へと戻ってきた。
そのとき男は一人ではなかった。
女がいた。
(―――はァ!?)
男にべったりと腕を組んで現れたその女―――なんと、翔吾の母親だった。
泉は我が目を疑った。
とっさに近くの電柱に身を寄せ、眉間にシワが寄ってしまうくらいに目を凝らす。
桐野母と見たときよりはいくらかマシな髪格好に整えられていたけれど、ひと目で彼女だとわかった。
媚び売りに細められた目、上がった口角、乗せられたチークが女性らしさを強調している。
(桐野くんのお母さんの言ってたこと、本当だったんだ)
信じられないものを見てしまった、と愕然としたそのとき。
「なにしてんだ、代谷」
声とともに肩を叩かれて、泉は弾かれたように振り返った。
「!? おっ、小野寺くん! しっ!」
慌てて自分の口に人差し指を添えると、彼の腕を引く。
幸い、女たちに気づかれてはいなかった。
男が助手席のドアを引くと、促されるまま女は車に乗り込み、運転席のドアが閉まるとすぐまた車は動き出した。
道の端に寄ると、シルバーのレクサスが泉の前を颯爽と走り抜けた。運転手は、まだ四十前だろうスーツに身を包んだ若い男だった。
車が走っていった方向に泉も歩を進める。
と、ほどなくして車は停止した。
よりによって泉が向かわんとしているアパートの前、道の端すれすれに車を駐めると、エンジンはかけっぱなしのまま、男は滑るように運転席を降りてきた。
迷うことなく真ん中のアパートへ足を向ける。
規則的な足取りから、通い慣れている様子が窺える。
鍵もかけずに出て行ったから、部屋に入るほどの用事ではないのだろうと思ってはいたけれど、それにしてもびっくりするほどの短時間で男は車へと戻ってきた。
そのとき男は一人ではなかった。
女がいた。
(―――はァ!?)
男にべったりと腕を組んで現れたその女―――なんと、翔吾の母親だった。
泉は我が目を疑った。
とっさに近くの電柱に身を寄せ、眉間にシワが寄ってしまうくらいに目を凝らす。
桐野母と見たときよりはいくらかマシな髪格好に整えられていたけれど、ひと目で彼女だとわかった。
媚び売りに細められた目、上がった口角、乗せられたチークが女性らしさを強調している。
(桐野くんのお母さんの言ってたこと、本当だったんだ)
信じられないものを見てしまった、と愕然としたそのとき。
「なにしてんだ、代谷」
声とともに肩を叩かれて、泉は弾かれたように振り返った。
「!? おっ、小野寺くん! しっ!」
慌てて自分の口に人差し指を添えると、彼の腕を引く。
幸い、女たちに気づかれてはいなかった。
男が助手席のドアを引くと、促されるまま女は車に乗り込み、運転席のドアが閉まるとすぐまた車は動き出した。