キミは聞こえる
「その……ありがとな」

 振り返り、訝しげに小野寺を見つめる。

「どうして小野寺くんにお礼を言われるの。別になにもしてないけど」
「栗原の友達になってくれたんだろ? そんなヤツ、高校上がって代谷と出会うまで一人もいなかったから―――」
「小野寺くんはずっと栗原さんの友達で、味方だった。一人もいないなんて間違い」

 嫌で嫌で仕方がないはずの学校にもちゃんと登校して、周囲にどんなにか厳しい目を向けられても、なにを囁かれても、自分の席を守っていた。

 佳乃一人でここまで来れただろうか。

 あの佳乃が。

 並大抵の気力ではきっと成し得なかった。

 橋の下、桐野と話したときに思いだした過去、そこで気づいた1つの欠点。

 佳乃にあって、泉にないもの―――それは、


 『絆』というものへの執着心。


 それを絶やさぬよう、陰に陽にしぶとく心を砕いてくれていたのは、彼―――小野寺だった。

「代谷…どうして、それ……」
「栗原さんが言ってた。小野寺くんは優しい人なんだって」
「栗原が、そう言ったのか? ほんとに?」
「本当に」
「い、いやでも、俺はおまえたち女子みたいにいつもあいつの傍にいれるわけじゃなかったから、実際にはなにも出来てないんだ」
「人としての当然の心情。気にすることない」

 小野寺がいままでどおり接してくれることが、彼女にとってはなによりの救いだったはずだ。

 異性を意識して踏みとどまってしまう場面など、誰にだっていくらだってあるに決まっている。

 佳乃が心配だからといってボディーガードのようにつきまとうことなど出来ようか。

 小野寺になんの非があるというのだ。

 まじまじと、泉は小野寺を見つめる。
 

 それでも悔やんでしまうのが、小野寺という人間なのだろうか。

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