キミは聞こえる
「小野寺君の目が届かないときは、私が彼女を見てるから。また変な言いがかりをつけられそうになったら、私が立ちはだかって彼女を守るから。女子には女子でしか立ち向かえない、そうでしょ」
「代谷」

 面食らったように、小野寺は口を開けたまま立ち尽くす。

「だから、これからも栗原さんへの態度を変えないであげて。中学の時からしてきたように」


 そして、


 願わくば、彼女の想いに気づいてあげて……―――。


 あんなに純粋な女の子、この世の中そういるものではない。


 小野寺は、強い意思の宿った眸で泉を見返した。

「変えるつもりはない。変えようがない。あいつは、なにひとつ悪いことなんかしてねぇんだ。春の合宿も、中学んときも、咎められるべきは栗原じゃねぇ」
「そう思い続けてくれる人がいてくれることが彼女の力になってる」
「……代谷は知らないのか? あいつの過去を」

 まただ、と思った。

 影のように佳乃につきまとう過去という忌まわしい存在。

 泉は軽くかぶりを振る。

「過去なんてどうでもいい。今の栗原さんを私は信じる」

 いつかすっかり誤解が解けて、冤罪だと誰もが知って、林間学校以前までの佳乃に戻るときが来るその日まで―――

 いや、その日が来ても、私はその先も彼女の友であろう。

 彼女を彼女として留めておく役割が小野寺であるとするなら、

 私は、襲いかかる障害や陰口から彼女を守る役目を担おう。
 佳乃の盾になってみせよう。

 とつぜん、小野寺は頭を下げた。
 目の前につむじが現れ、ぎょっとして後ずさる。

「恩に着る。これからもあいつと一緒にいてやってくれ」

 熱のこもった切なくなるほど力強い言葉が胸をあたたかくする。

 これが人が人を思う気持ちというものか、と思った。

「栗原さんは幸せ者だ」

 顔を上げた小野寺は、すこし惚けたように泉を見た。

 大人びた顔つきに浮かぶ表情はまるで少年のそれで、やはり彼もれっきとした高校一年生なんだと感じた。
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