キミは聞こえる
「翔君、サッカーが好きでね。しょっちゅうチームの練習を見てたわ。あそこの、見える?―――半分埋まっているタイヤで、一人ぽつんと座ったまま」

 おそらくそのとき稲森から声をかけてもらったのだろう。それで、何度も案内を家に届けられるようになったのだ。

 だが実際はあの通り、見向きもされず、雨風に野ざらしにされたままになっている。

「もしかして、代谷さんがいたのもそれで?」
「え?」
「翔君がサッカーが好きだって知ってたからでしょう、違う?」
「い、いえ……私はただ、気分転換に町を歩いていただけですから……。サッカーが好きだと知ったのは、今が初めてです」
「そうだったの」

 ホイッスルが強く吹き鳴らされると、一つのボールを巡り、子供たちが一斉に動き出した。

 風が吹き、泉の髪をさらう。

 稲森の首にかかったホイッスルのロープが揺れ、ジャージーの色ではっきりと見えなかったホイッスルが宙に浮いた。


 それは、まるで晴れ渡る夏空のように青々とした爽やかな色に染まっていた。

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