キミは聞こえる
 ……内容は、そうなっていた。

 呼び出されている。私が、小野寺君に。

 携帯電話を握る手が震えている。
 夢ではなかろうか、と何度か瞬きをして頬をつねってみる。

 痛い。

 ということは、―――夢じゃ……ない!

 立ち上がったまま、佳乃は硬直した。

 滑り落ちたシャープペンシルが机に落下し、そのかつんという音で我に返った佳乃は、慌てて返信ボタンを押す。

[だいじょうぶだよ。どこに行ったらいい?]

 痙攣でも起こしたようにぶるぶると落ち着きのない指でなんとかそれだけを打つと送信した。

 返事はすぐに来た。

[中森商店のすぐ近くの公園にいる]

 どうせ外に出る用事はないからとジャージにTシャツで過ごしていたが、小野寺と会うのにそれはあり得ない。

 下を無難なスカートに履き替え、携帯と、アクセサリーショップで購入したある物を手に佳乃は部屋を飛び出した。

 玄関に行く手前、洗面所でリップを塗り、髪の毛を確認、さっと直して外へ出る。


 まだ陽は高い位置にある。とはいえ時刻はすでに夕方の五時を回り、公園に人はなく、静寂に包まれている。

 ときおり吹く風に梢が揺れ、乾いた音がかすかに聞こえるばかりだ。

 佳乃はあたりを見回した。

「栗原」

 砂を踏む音が少しと、愛しの低音が佳乃の耳朶を揺らした。

 その人は、滑り台のはしごの前に立っていた。
< 431 / 586 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop