キミは聞こえる
「小野寺、くん」

 一歩、二歩、と互いの距離が縮まっていく。

 小野寺の影を踏む手前で、佳乃は止まった。偶然か、小野寺も同じタイミングで足を止めた。

「ごめんな、急に呼び出して」
「うっ、ううん。ま、待たせちゃった?」
「いや、呼んだの俺だから。気にするな」

 休みでも手を抜かないらしいしゃきっとした出で立ちの彼を前にして、とたんに自分の身支度のいい加減さが恥ずかしくなった。

 スカートをきゅっと握りしめる。


 ……私だって。


 前もって約束をしていたなら、もっとちゃんとした格好で、メイクもして、髪型も整えて、学校とは違う女の子らしい自分を小野寺に見せられた。

 時間がなかったなんて、そんなの言い訳だ。
 常日頃からもっとちゃんとしていればよかっただけの話である。

 今の私は、学校で会う制服姿の自分よりずっとダサイ。

 性格がすでにマイナスなら、せめて見た目でくらいプラスの印象を与えなければいったいどこで点数を稼げばいいというのか。

 いま、自分の前に立つ小野寺は、休日の栗原佳乃を見て、心の中でどう思っているだろう。

 考えるまでもない。

 ……終わった、と佳乃は思った
 ―――見た目の判定は。

「な、なにかあったの」

 二人きりで公園なんて夢のようだ。

 どんな話が待っているのだろうと期待が膨らむけれど、一緒に不安も大きく広がっていく。

 佳乃の中では性格も見た目もすでに悪印象を与えまくっていることになっているため、ここに来るまでは半々だった期待と不安の割合は、いまではもう圧倒的な差を見せつけて不安が怒濤のように押し寄せている。

 救いようがない。

 なにを言われるのか、想像するだけで怖くて仕方がなかった。

 そんな佳乃を前に、なにかを決意したように小野寺の双眼がかっと見開かれた。


「栗原!」
「――はっ、はい!」
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