キミは聞こえる
「まじかよ」
「大マジだよ。おい、練習遅れるぞ。選ばれたからいい気になってるなんて言われたらどうすんだ」

 桐野の手を振り払い、前方を駆けていく小野寺の背が眩しかった。

 心なしか小野寺の足音がいつもより軽やかに聞こえた。


 よかったな、と口の中で呟く。


 瞬間、胸がずきりと痛んだ。


 降り注ぐ光の中に飛び出した小野寺を、俺は初めて、憎らしいと思った。


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