キミは聞こえる
 道具を閉まっておく倉庫である。

 鍵をかけた倉庫のドアノブには、練習用とは別の、居残って練習をしていく者たちのための予備のボールが網目状の袋に収まってぶら下がっている。

 そこから一つを取り出して、堅さを確認、何度かリフティングをした後、ゴールの前へとふたたび戻る。

 グラウンドに倒れる影は桐野のそれただ一つだった。

 先週の休日を思い出す。

 代谷が自分から練習に付き合ってやると言い、キーパーになってくれた。

 数歩下がって、狙いを定め、ボールを蹴る。

 微かな痺れが彼の足の側面をかすめる。

 ネットにかかったボールはぐるぐると回り続け、やがて止まると、滑るように地面に落ちた。
 ボールが向かった先は、狙い通りの完璧な場所。

 一度ゴールを確認すれば、目を閉じていても、今と同じ位置にボールを蹴り込むことが出来るだろう。

 頭が、身体が、わかっている。

 ただそれは、キーパーがいない場合に限るけれど……。

「―――おい、いつまでやってる」

 振り返ると、そこには早々と着替えを済ませた悠士の姿があった。

「帰るぞ、支度しろ」
「先帰れよ。いい年して一緒に帰りたくねぇ」

 先日のことがあってから、悠士とはぎこちない関係が続いている。

 そう思っているのは桐野だけかも知れないが、悠士はいつもこの調子なので変化が伝わりずらい。

 もう気にしていないのか。

 それとも桐野と同じで、なんとなくまだ近寄りがたさが胸に残っているものの、敢えて隠しているのか。


 ……やっぱり俺は兄貴が苦手だ、と思う。
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