キミは聞こえる
「代谷さんてすごい人なんだね」
アイスを舐めながら佳乃が笑う。
それを見て、どこか複雑な気持ちになっている自分に気づき泉はまた首を傾げた。
ほんと変だ私。
「すごくはないと思うけど」
「なになに? 代谷のなにがすごいの?」
とつぜん響いた呆れるほど明るい声。夜だとか寒いとか関係なしに、いつだってバカでかい男の声。
振り返らずともわかった。
佳乃の視線が上がり、あっ、桐野くん、と名前を呼ぶ。
(やっぱり……)
耳栓を持ってくるんだったと激しく後悔した。
同じ班で昼間も一緒に行動していたのだ。
部屋が別れてやっと大声地獄から解放されたと思っていたのに。
一気に気分が沈んだ。
「代谷さんが、初等部から栄美だって、鈴森に来る前のこと、聞いてたの」
佳乃は、桐野たちの顔を見ず、もじもじと答えた。
その様子を見て、桐野に着いてきた男子二人がくすくすと笑う。嘲笑だった。
二人ともクラスメイトだとはわかった。見覚えのある顔だ。けれど、やはり名前はわからなかった。
覚えなくても障りはしないだろうが、我ながら記憶力が乏しいなとは思う。
もっと他人に興味を持つべきなのだろう。そうすればもっとすんなり名前を覚えられるだろうに。
泉はアイスを口に含み思った。
(でも、やっぱり面倒くさいかな)
「ほえー。聞いたかよおまえら。初等部から栄美だって」