キミは聞こえる
「っくしょう……っ!」

 ちくしょうちくしょうちくしょう!

 ああそうだよ、声なんかしょっちゅう上げてんだよ!
 どうせ俺は感情のまま言いたいことをぶちまけて、やりたいことやりまくって、困らせてばっかりの自分勝手なやつだよ!

『すくなくとも、俺よりは感情にまかせて相手を怒鳴りつけたりはしないと思う』

 ……小野寺はちっとも俺のことなんかわかっちゃいない。

 基本、他人より自分優先の、自己中心的な馬鹿なんだ。

 だから現に、この間の土曜日も―――サッカーに付き合ってもらった後、はじめて代谷が涙をこぼすところをあんなに間近で見てしまい、いてもたってもいられず慌てて追いかけたら、その先で思いがけずとんでもない現場を目撃して、パニックを起こしそうなくらいわけがわからなくなって、

 瞬間的に思い出した設楽の言葉と、ろくな思考もせず重ねていた。

 自然、ため息がこぼれる。

 俺は、代谷のなんでもない―――

 これも、設楽が言った言葉。

 ……わかってる。

 だから代谷がなにもかもを俺に打ち明ける必要も義理もないことは、百も承知だ。

 だけれど、それでもやっぱり、口ごもって、黙って、待ってもなにも言ってくれないあいつを見ていると腹立たしくて我慢がならず、次々に浴びせるように疑問をぶつけて挙げ句もういいと勝手に話を放り投げて、背を向けた。

 思い返して、我ながらなんて大人気ないことをしたのだろうと思う。
 何様のつもりなんだろうか、俺は。

 携帯を取りだして、友香姉から届いた代谷に内緒のメールを開く。

 こんなに無邪気に笑っちゃってさ……学校では滅多に見せない、いや、見せたことはないだろう眩しい笑顔。

 土曜日、アパートの近くで別れてすぐ、このメールを消去しようか悩んだ。

 ……消せなかった。

 メールを消去するように、そんなに簡単に忘れることが出来るなら、はじめから代谷を好きになったりしない。
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