キミは聞こえる
 同類の意味はきっと、あの日見た非道行為のことではない。

 あのときはうまく思考が回らなくなって思いついたままを口にしてしまったけれど、今にして思えばあれにはなにか別に重大な意味があったのだ。

 代谷は人の目を盗んで余所の家のポストに詰め込まれた広告を漁っていた。

 あんな腐れた趣味を持つ女ではない。

 それに、厄介事をこの上なく嫌う面倒くさがり屋なのだから。

(やっぱ、謝るべき……だよな)

 でも、どう切り出せばいいのだろう。
 なんと言ったらいいのだろう。

 真実をなにも知らないのに、疑ってごめんじゃあなんだか感情が込もらない。

 あんなことがあってもとりわけ怒るでも悲しむでもない代谷は相変わらずで、それが功を奏してなのか別に避けられてはいない。

 というかむしろ、俺のほうがかえって代谷と距離を置いているような気さえする。

 だからいつもどおりおはようと声をかけてもあいつは多分挨拶を返してくれるだろうし、話しかければいつもの覇気のないワントーンボイスで返事をするだろう。


 けれど………。


「なんからしくねぇ……」

 代谷を前にすると、自分が自分でなくなる。

 気がするとかじゃない。

 まるで別人みたいにぎこちない自分に確かになってる。


 突然、人の気配を間近に感じた。

 次の瞬間、


「にーちゃん!」
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