キミは聞こえる
「ぐはぁっ!」

 いきなり後ろから飛びつかれ、強制的におんぶをさせられた。

 腕で支えてないのにがっしりしがみついて、しっかりおんぶの体勢を取っているから重くて仕方がない。首が外れそうだ。

「おっ、おい! やめろ、降りろって!!」
「なぁにしょぼくれてんだぁ? あっ、わかったぞ! さてはテストぼろぼろだったんだな、そうだろ、ん!? わっかりやすー」

 兄を指さしてげらげら笑う弟の下品な声に、鼓膜がきんきんした。

 いくら身体を捻っても飛んでみても離れようとしない康士の膝裏にしぶしぶ手を通して一度背中を揺らす。

 何故この歳になってまで弟をおぶらねばならないのか。

「ちっげぇよ。それなりには解けた」
「にーちゃんのそれなりはほんっとにそれなりだからなぁ」
「うっせぇな! それよりおまえはどうだったんだよ。そろそろ返りはじめんだろテスト」
「んー俺はまあまあかなぁ。代谷さんに英文の読み進め方のコツ教わったから、大問はほぼ満点だった」

 人の気も知らず幸せそうに言ってくれるものだ。

 おそらく送り迎えをさせていたときに聞いたのだろう。

「他は? あ、戸閉めろよ」
「うん」

 桐野の背に乗ったまま康士はがらがらとハウスのドアを閉めた。

「他ぁ? 数学は相変わらず赤点すれすれだったけど、でもセーフだった。あとはそれなりに可もなく不可もなし、かな」
「ふぅん。つかおめぇ、ずいぶん重くなったな」
「筋肉ついたってことじゃね? やったー」
「兄貴みたいにはなんなよ。あんな脂肪率10%なさそうなマッチョ」
「にーちゃん腹割れてる?」
「六つじゃねーけど」
「俺も。―――なぁ、にーちゃん」
「ん?」

 ずいっと首を伸ばして康士は顔を近づけてきた。

 弟に間近で見つめられてもあんまりいい気分ではない。
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