キミは聞こえる
 瞬きをするたびに、くるりんと女子のようにカールした睫毛がぱさぱさと揺れる。

 不本意ながらもよく似ているそのやや黒目がちな大きな瞳は、月光を取り込んだだけではない妙な輝きを放っていた。

 なんだろうと、ややアゴを引き横目で弟の顔を窺う、と―――。

「代谷さんてさ、彼氏とか、いたりするのかな?」

 あと一歩で家の門、というところで桐野の足がぴたりと止まった。

 すぐそこに康士の顔があることを忘れおもわず思いっきり首を捻り、危うく唇が触れ合うところだった。

 すんでのところでお互い首をのけ反らせる。

「かれ……はっ!? えっ、おまっ、それ、ちょっ! おまえ、まさか代谷のこと―――」
「しーっ、しーっ! にーちゃん声でけぇって!」

 言いながら自ら桐野の背を慌ただしく降りると、康士は桐野の口を掌で塞いだ。

 その手をむしり取り、ぶはっと息を吐き出してから、桐野は声を落として尋ねた。

「ってぇことは……ま、まじ……?」

 照れくさそうに康士は桐野から目を反らすとすこしだけ唇を尖らせた。

 鼻の下をこすり、「マジって言うか……」と言葉を濁す。

「ちょっと気になってるっていうか…………にーちゃんは惚れてんだろ?」
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