キミは聞こえる
 いつもなら腹立たしいだけの彼の馴れ馴れしさだけれど、このときばかりはその場を気にしない底なしの明るさに感謝した。

 桐野が話しかけてくれなければ、泉一人ではこの気まずさを打開することは出来なかったから。

 泉はもやもやしていたものも一緒にアイスを飲み込んだ。

 決めたの? と重ねて尋ねる桐野に、泉が目で先にどうぞと促すと、佳乃は恐る恐る口を開いた。

「わ、私はまだ。代谷さんは?」
「入らない」
「それは駄目なんだぞー。うちの高校は部活入部は絶対だ。なあ?」
「おう。桐野はもう行ってんだろ?」
「うん」
「おまえはサッカー馬鹿だからな」
「馬鹿は余計だ!」
「いやいや、そういう馬鹿じゃねえって」

 部活入部は絶対、か。

 めんどくさい。

 勉強一筋の栄美にも一応部活動は存在したけれど、あくまでも希望制で、入る者は少なかった。

 入りたいと教師に頼むと睨まれると聞いたことがある。

 もちろん泉は入ろうと思ったこともないので険しい目で見られるようなことはなかったけれど。

 泉はちいさくため息をついた。

(絶対かぁ……かったるいなぁ……)

 入るとしたらなるべく活動の少ない部活を選ぼう、とは思いつつも、部活動の種類などこれっぽっちも知らない。

 バスケ、サッカー、野球、くらいが定番なのだろうか。

 栄美に存在したのは茶道、華道、陸上のみだったから他にはどんなものがあるのか泉には知識がない。

 できれば帰宅部を熱烈希望だけれど。

(そんなものはないんだろう)

 ああなんて面倒くさいだろうとうんざりしていると、ふいに佳乃と目が合った。

 なにか言いたそうにしていたので、なに? と問いかけると、佳乃は一瞬びくっとして目をそらす。

 しばし忙しなく視線を往復してからおずおずと尋ねた。

「代谷さんは、は、入るとしたら、どこに、入る?」
「一番活動時間の少ないところ」
「科学とか、写真とか?」
「活動ないならそうかも」
「はいはーい」

 またもや桐野が、今度は手を上げて勢いよく割り込んできた。

「入るところないならサッカー部のマネージャーはどうですか」
「却下」

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