キミは聞こえる
≪もしかして、声が、出ないの……?≫
≪……≫

 意識を口に切り替える。

「そうなのね?」

 翔吾はちいさく頷いた。もういちど彼の心に集中する。

≪いつから?≫
≪わかんない……びょういんにつれて来られてから、だれとも話してなかったから。おねえちゃんの声が聞こえて、ひさしぶりに口あけたらなんだか、よく、わからなくなって≫

 もういちど口を開ける翔吾。

 発声を試みるものの零れ出るのは呼気ばかりだ。

 諦めずに何度もアゴを動かす翔吾だが結果は同じだった。

 急にショックを感じたように、翔吾の顔はみるみる沈んでいった。

 いいよ、もうやめて、と優しく肩をさする。

≪一時的なものだと思う。私とはこうやって話せるから無理しないで≫
≪……これって、なんなの? おねえちゃんの口、うごいてないよね≫
≪誰にも言っちゃ駄目だよ≫

 泉は翔吾の乾ききった唇に人差し指をそっと乗せた。


≪おねえちゃん、実はエスパーなの≫


 途端、翔吾の目が零れんばかりに見開かれた。
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