キミは聞こえる
≪う、うそ! エスパーって、あの、ちょうのうりょくしゃ―――ってこと!?≫

 思いもよらぬ翔吾の食らい付きように泉はすこしだけたじろいだ。

≪ま、まぁ…………。それほどすごいものではないけど≫
≪すごいよ! 悪を倒す戦士みたいだよ! かっこいい!≫

 ヒーローに認定されてしまった。

 読心術、わかりやすく言えばテレパシー。
 また、テレパシーなどの超能力を用いることが出来る者らを総合してエスパーと呼ぶ。

 だが所詮、自らをエスパーだ超能力者だと吹聴して回る者の大半は詐欺師である。

 別にそう思われてもかまわない。

 むしろ、信じてくれないことのほうが泉としては好都合だった。

 だから敢えて『読心術を操れる』などという難しい説明は避け、誰もが「嘘だろう」と鼻先で笑うようなエスパーという表現を用いたのだが、

 この様子ではどうやら翔吾は完全に信じ切ってしまったらしい。

 幼い彼には簡単な横文字より、固い漢字を使った方が現実的すぎて逆に浸透しづらかったかもしれない……。

 地球を滅亡の危機に陥れんとする魔の驚異から、世界を守るべく立ち上がったなんとか戦士と対面しているような、どこか尊敬の眼差しで見てくるものだから苦笑する。

 ちょっと心が読めて会話が出来る程度だぞ……。

 体育の成績は万年一か二。

 まともに出来ることと言えば前にでんぐり返しをすることくらいしかないのだが……それすら怪しいぐらいで……

 それでは世界を守るどころか誰より先に泉が死ぬ。

 世界で一番頼りがいのないヒーローここに誕生。


 と、翔吾の手がおもむろに自身の腕に伸ばされた。
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