キミは聞こえる
 泉を認めた二人のうちの一人が彼女に向かって「おう」と声をかけた。

 友香が振り向く。

「あら泉。来てたの」
「う、うん。あの、ちょっと…いい?」
「いいけど、どうしたの」

 二人に軽く頭を下げ、友香の手を引いて翔吾の病室に連れて行く。

 途端、彼女は驚いたように目を瞬かせた。これはどういうこと、と彼女の顔は言っていた。

 ドアが開いた音に反応した翔吾が自ら、彼女たちへ向けて身体を捻ったのである。

 そればかりか、親しげに笑いかけたものだから、それまでなにをやっても反応一つ返さず途方に暮れていた友香がおもわず声が出なくなってしまうほど動揺するのもわからないではなかった。

「翔くん、腕がかゆいんだって。看てあげて」
「あ、ああ、うん。翔君、ちょっと腕貸してね」

 友香が言うと、翔吾は大人しく彼女の言葉に従った。

 それもまた彼女には愕きだったようで、一瞬、手の動きが止まったのを泉は見逃さなかった。

「あー、ちょっとかぶれちゃってるね。いったんテープ剥がそうね」
≪痛くない?≫

 テープが剥がされる。続けて針が抜かれた。

 心で尋ねる。

≪だいじょうぶ≫
≪いい子≫
≪おねえちゃん≫
≪なに? やっぱり痛む?≫

 翔吾は首を振った。

 さいわい、腕に集中していた友香には気づかれなかった。

≪おなか、すいた≫
≪頼んでみるね≫

 一度、意識を切り離す。だいぶ慣れてきた。
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