キミは聞こえる
「友香ちゃん。翔くん、お腹空いてるかも」

 泉をちらりと見て、なんでそんなことわかるの、と言うような訝しげな顔をした。

 けれど、声には出さなかった。翔吾に向けて首を傾げる。

「お腹、空いた?」

 翔吾はこくんと頷いた。

 立ち上がった友香は翔吾の手を掴み、

「もうお昼の時間終わっちゃったから食堂行こうか」

 と、ベッドから降りるようベッドの下、子供用のスリッパを促した。

「先生に一度見せなくてもいいの?」

 と、それとなく訊くと、

「小児科の先生もちょうど今お昼に行ってるから」

 だいじょうぶよ、と友香は低い声で返した。

 ふいに小さな掌が泉の手に触れて、視線を落とす。

 翔吾の手だった。

 まだまだ短い指を懸命に伸ばして、出来る限り多くの指を握ろうとするけなげさが愛おし過ぎて、泉のほうから強く握りしめると嬉しそうに翔吾は笑った。

 それで自然、泉の顔もほころぶ。

 病室を出ると、ナースステーションの前に二人の姿はなかった。
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