キミは聞こえる
「即答すぎるだろ」
「活動があるものには入りません」
「どこだって活動があるから部活動っていうんですけどー?」

 にやにやしつつのぞきこむ桐野を無視して泉は続ける。

「訂正。月に二回以上活動があるものには入りません」
「えー。入ってくれよ。マネージャー引退しちゃって今一人もいないんだぜ?」

 そんなこと、私の知ったことじゃない。

 中ならばともなく、屋外なんてとんでもない。冬は寒いし夏は灼ける。最悪だ。

 断固、拒否。

 部活に女子マネージャーは必須だろ、などとふざけたことを大声でほざく桐野の声を素通りして泉は佳乃に訊く。

「栗原さんはマネージャーにならないの?」
「えっ!?」

 一斉に響いた声。驚く声と引く声と、嫌がる声が重なってなんとも汚い音がした。

 泉と桐野以外の三人のものだ。

 桐野に着いてきた男たちの顔があきらかに佳乃を馬鹿にしている。

 男たちは顔を見合わせるといやらしく口の端を上げた。

《栗原がマネージャー? はっ、勘弁しろよ。あんなキモイヤツ。マジ死ねし》
《あいつが部活入ったらそれこそ不幸の女神だよな。勝てる試合も負けちまうよ。疫病神? うげぇ》

 あまりに汚らしい罵詈雑言が続き、頭が痛くなった泉は小さくかぶりを振って"声"を中からとっぱらった。

 どうやら桐野以外の男たちは女子同様、佳乃に嫌悪を抱いているようだ。

 たしかに、苛立たしい存在であることに間違いはない、けれど――。

(そこまで言うほどか)

 死ね? 不幸? 疫病神? 

 佳乃に生きていることを放棄させる権利がおまえたちにあるのか。

 佳乃が誰かを不幸にしているのを見たことがあるのか。

 すくなくとも泉が見ている範囲ではそういったことはないように思えた。

 冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろう。

 いや、言っていると聞こえたのは私だけだけれど。

 それでも、心で思っているということは、彼女がいないところではそれを声に出して言っているのではないだろうか。

 そう思った途端、ずんずんと腹の底が冷えてくるのがわかった。

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