キミは聞こえる
「これ以上のことを申し上げるつもりはありません。ですが、そのような恥ずべき行いを人目を憚(はばか)ることなく白昼堂々なさるようなお方になにも言われる筋合いはない、ということだけは申し上げさせていただきます」

 形勢逆転。

 泉は目をつり上げて女を睨み据えた。

「今すぐお帰り下さい。さもなくば警察を呼びます。警察を呼ばれて困るのはあなたのほうではありませんか」
「……っ!」

 虐待があったことは周知の事実だ。

 虐待は立派な犯罪のはずで、そもそも女がいまでも町を闊歩できることがおかしいのだ。

 出頭をいつまでも女が拒んでいるのか、事実を事実として認めないのか。

 いずれにせよ、現在の状況で明らかに不利なのは、いや、女が翔吾に手を上げたその日からすでに、圧倒的に女だ。

 そうでしょう、という意味で片眉を上げると、女の心がどす黒い色に染まっていった。

 怯えと怒りとがぐちゃぐちゃに混ざった心はなんとも醜い。
 
「さっきから聞いてれば言いたい放題言いやがって! 関係のないやつがしゃしゃり出てくるんじゃないわよッ!」

 どんっと肩を押されてよろめく。

 運動神経の鈍い泉がとっさに対応できる強さではない。みっともなくも思い切り尻餅をついた。

 きゃっ―――じんッと臀部に痛みが走った。

 しゃがんだ翔吾が心配そうに泉をのぞく。

「翔吾!」
「お帰り下さい。これ以上騒ぎ立てるつもりなら病院(こちら)としても見過ごせません」

 慌てて翔吾を抱き寄せる。
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