キミは聞こえる

四章-11

 病院の正面玄関を抜けると、玄関屋根を支える柱に身体を預けて桐野が立っていた。

 泉の姿を確認すると、待っていたと言わんばかりに背を離して彼女のほうに身体を向けた。

「代谷」

 目を細め、顔をくしゃっとするのが彼のクセ。
 彼らしい笑顔を久しぶりに見た、と思った。

「話したいことがあって、待ってた」

 何か用、と尋ねる前にそう言われたので、ふいをつかれた形で泉は浮かんだ言葉をのみこんだ。

 並んで歩くことに、なんの躊躇いも感じなくなっている。

 よっぽどな話があるのか、桐野は遠回りになる道を選んだ。

 泉はただ、着いていく。
 あまり馴染みのない帰り道を二人は進んでいた。

 不意に桐野が立ち止まった。

 その一歩先で泉は止まる。

 振り返ると、桐野は試合後のジャージー姿のまま、ショルダーバッグのストラップを握りしめていた。

「代谷」
「はい」
「……このあいだは、ごめん」

 アパートのポストを漁っていたときのことだろう。声を荒げたことを気にしているらしい。

「別に。……私こそ、失望させてごめんなさい」

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