キミは聞こえる
 自嘲気味に笑うと、

≪そ、そんなことねーよ! た、ただ、ちょっと、びっくりして…その……≫
≪びっくりしたでしょ。私もおどろいた。設楽って人にいきなりこれをされて≫

 設楽の名前が出た途端、桐野の顔が険しくなる。

≪設楽が? ……まさか、あいつの言ってたことって≫
≪そう。設楽って人と同類っていうのは、つまり、"こういうこと"なの。あの人もこれが出来る。いまでは私もこれが出来る≫
≪テレパシーってやつか≫
≪まぁ、そう。でも、私はあの人に会うまで自分には心を読むことしかできないんだと思ってた≫

 とそこでとつぜん視界がくらりと揺らぎ、足元に力が入らなくなった。

 とっさに差し出した桐野の手に掴まり、反対の手で額を押さえる。

 おそらく力を使いすぎたせいで頭がひどい疲労を感じているのだろう。
 と思った矢先、さっそく頭痛がじわりじわり。

「どうした」

 首を振る。

「……なんでも、ない。ただ、ちょっと目眩がしただけ」

 一つゆっくり息を吐いて、顔を上げる。

 心配そうな桐野の眼差しに触れる。

「大丈夫なのか」
「平気」
「……俺の、せいか?」
「は? どうして桐野君が出てくるの」

 桐野は泉の手を握りしめると、俯きがちのまま顔を歪めた。

 こぼれた声は小さく、掠れ、ひどく聞き取りずらいものだった。

「その、テレパシーみたいな力のせいなんだろ、目眩がするのは………ただの勘だけど。俺、聞こえたよ、代谷の声。試合中―――幻聴だって思ったけど、そうじゃなかったんだな」
「幻聴だって勘違いしててくれればいいのにさ」
「え?」
「桐野くんならいつかは気づくんだろうなとは思ってたけど、出来ることなら知られたくはなかった」

 言うと、泉は自分から桐野の肩に額をあてた。

 耳許で桐野が驚いたようにひゅっと息を吸い込んだ。
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