キミは聞こえる
「……な、なら、どうして話したんだよ」

 無駄に勘の鋭いらしい桐野が泉の秘密に気づくのは時間の問題だと思った。

 だから、いざそうじゃないかと確信にほど近い考えを持たれた段階で、周囲に「もしかしたら」と話される前に泉自ら打ち明けることで先手を打っておこうと思った理由も確かにあるにはある。

 けれど、それが第一の理由ではない。

 むしろ、そんな考えはたったいま思いついたばかりのおまけ。

 このとき、この一瞬に、桐野に話そうと泉の背中を押した一番の理由は、打算や自分にとっての都合など見向きもせずに追い越した、

 まるで不可解な感情だった。



「―――桐野くんが、好きだから」



 言ったとたん、胸と喉が同時に震えた。

 得体の知れぬなにかに怖さを感じて、逃げ出したくなった。

 それなのに、感情とは裏腹に、手はいっそう強く桐野の手を握りしめる。

 矛盾する心と体、頭痛がさらに悪化する。
 けれど、握りしめる指を緩めることは出来なかった。

「しろたに……」

 呟きとともに、桐野のもう一方の腕が泉の背に回された。

 桐野に触れられた部分が異常なほど敏感になっている。

 背中から、掌から広がり、全身が体温以上の熱を帯びていく。

「まだ、会って半年も経ってないのに、嘘だろって思うでしょ。私もそうだもん。いままで、こんな気持ち、なったことなかったから。だから、いまでもこの気持ちがその言葉に当てはまるのかよくわからない……。信じられないなら、信じてくれなくてもいい。

 だけど、これ以上はもう隠し事をしていたくなかった、


 それだけは―――」

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