キミは聞こえる
「いつからなんだ」
「物心つく前から、だったと思う。なんとなくしか覚えてないけど、たぶんそうだったんだろうなっていう記憶はぽつぽつ」
「設楽も、そうなのか……?」
「そうらしいよ。だからあの人には迂闊に近寄らないほうがいい。設楽って人は誰彼かまわずに心を読むから」
半径何メートルまでの人間なら声が届くのかとかまではわからないけれど、出来ればあの男の視界にはいないほうがいい。
もしかしたらそうなのか、とは思っていたけど……、と桐野は眉根を寄せた。
「でも、そんな話はテレビの中だけだって思い込んでたから」
「そうだね。私も自分の力以外はまるっきり信じてない。幽霊も、陰陽師も、SF系も。私のだって、人間が作り上げた幻想どまりであってくれたらどれだけよかったか」
実父の藤吾にさえ、打ち明けようと何度も思い悩み、その度に言えなかった。
霊感とは違うし、お祓いをしてどうにかなる能力ではないと幼いながらぼんやりとわかっていた。
ましてや『相手の心が読める能力』などと、たとえ藤吾にとて打ち明けられる話ではなかった。
人の心が完全に読み取れる、というのは、ある意味最強の武器なのだ。
相手の懐に忍び込むのにこれ以上の武器はない。それがわかっていた。
苦しみはすべて自分一人で抱え、飲み込み、乗り越えるしかなかった。
なにも知らず、なにも出来ない、ごくふつうの女の子に産み落とされていたならどれだけよかったことだろう―――
そう、人間の闇に潜む鬼の声を耳にするたびいつも思った。
「―――だけど、その力があったから、おまえはあの子を助けられた……だろ?」
桐野の目をのぞき込む。
「なんで、それを……」
「よくはわかんねぇ……けど、あれも、もしかすっとおまえの力が作用してたのかな―――」
自信なさそうに時折くちごもりながら桐野は言った。
「さっきな…おまえが翔吾って子を抱きしめてるとき、おまえの肩に触れた途端に、俺の記憶じゃない光景が早送りで俺の頭を流れていった……んだよ」
「なにを見たの」
「物心つく前から、だったと思う。なんとなくしか覚えてないけど、たぶんそうだったんだろうなっていう記憶はぽつぽつ」
「設楽も、そうなのか……?」
「そうらしいよ。だからあの人には迂闊に近寄らないほうがいい。設楽って人は誰彼かまわずに心を読むから」
半径何メートルまでの人間なら声が届くのかとかまではわからないけれど、出来ればあの男の視界にはいないほうがいい。
もしかしたらそうなのか、とは思っていたけど……、と桐野は眉根を寄せた。
「でも、そんな話はテレビの中だけだって思い込んでたから」
「そうだね。私も自分の力以外はまるっきり信じてない。幽霊も、陰陽師も、SF系も。私のだって、人間が作り上げた幻想どまりであってくれたらどれだけよかったか」
実父の藤吾にさえ、打ち明けようと何度も思い悩み、その度に言えなかった。
霊感とは違うし、お祓いをしてどうにかなる能力ではないと幼いながらぼんやりとわかっていた。
ましてや『相手の心が読める能力』などと、たとえ藤吾にとて打ち明けられる話ではなかった。
人の心が完全に読み取れる、というのは、ある意味最強の武器なのだ。
相手の懐に忍び込むのにこれ以上の武器はない。それがわかっていた。
苦しみはすべて自分一人で抱え、飲み込み、乗り越えるしかなかった。
なにも知らず、なにも出来ない、ごくふつうの女の子に産み落とされていたならどれだけよかったことだろう―――
そう、人間の闇に潜む鬼の声を耳にするたびいつも思った。
「―――だけど、その力があったから、おまえはあの子を助けられた……だろ?」
桐野の目をのぞき込む。
「なんで、それを……」
「よくはわかんねぇ……けど、あれも、もしかすっとおまえの力が作用してたのかな―――」
自信なさそうに時折くちごもりながら桐野は言った。
「さっきな…おまえが翔吾って子を抱きしめてるとき、おまえの肩に触れた途端に、俺の記憶じゃない光景が早送りで俺の頭を流れていった……んだよ」
「なにを見たの」