キミは聞こえる
「……そう。そこまで知ったなら、もう私から言うことはないよ。それらはすべて、真実。翔君のことを話すのはプライバシーに反したし、力のことを打ち明けることは出来なかった。……心配してくれてたのに、なにも言えなくて、ごめん」
「もう謝んな。ちゃんとわかったから。話せなかった理由も、話してくれた理由も、全部ちゃんとわかったから」

 そう言うとまた桐野は泉を引き寄せ、髪を梳くように頭を撫でた。

「嫌いになった?」
「誰が?」
「私のこと。心が読めるなんて、普通じゃあり得ない」

 バカだな、と桐野は笑った。

「仮に、代谷がその力を利用して悪事を働いたって言うんなら話は別だけど、代谷がしたことは立派な人助けだ。翔吾ってヤツも、きっとおまえに感謝してる。合宿で窮地に追い込まれた栗原を救ったのも代谷なんだろ?」
「……」
「それに今日、俺は代谷の声に救われたんだ」
「なんのこと」
「試合。おまえの声が背中を押してくれたから、ゴールを決められた。俺一人だったら、ゴールを決めるどころか、大怪我したあげく無得点のまま負けてたと思う」

 額をこすりつけるようにアゴを振る。

「それは違う。最後のシュートは、桐野くんの実力が為した当然の結果、あるべき姿だった。私はなにもしてない」
「俺はそれを否定する。俺はまちがいなく、代谷の優しさに助けられた。たしかに、おまえの力は普通のやつらが持ち合わせていない特殊能力だと思う。だけど、おまえが力を使うそのときには、きっとどこかの誰かが幸せを感じているはずだ。不幸じゃない、喜びを胸一杯に感じているはずなんだ。現に俺がそうなんだから」
「桐野くん……」
「おまえが特別であることに、俺は嫌悪も、不安も感じたりなんかしない。俺は、いま俺が見てる代谷が好きなんだ」

 どんな力を持っていようが、代谷は代谷だ。

 彼の真っ直ぐな瞳が、泉の目を通し、心までを貫く。

 受け止められないほどの大きな愛が泉に迫る。胸がうち震えた。

 どうして、と思う。


 どうして、桐野はこんなにも優しいのだろう。

 桐野の声は、こんなにも私を幸福に包んでくれるのだろう。


 桐野の腕の中にいると、それだけで不思議と涙が溢れてくる。

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