キミは聞こえる
「ん?」
「今度の祭は、案内じゃなくなるって、こと…だよな?」

 身体を離し、桐野を仰ぐ。
 と、彼はかすかにはにかんで泉を見下ろした。

 どういうことだろう、と寸刻頭を捻り、やがて泉ははっとして眉をひそめた。

 すると桐野は慌てた様子で、

「どうした?」と、泉をのぞき込んだ。

「それって……私たちが恋人同士として、デートに行く…ってこと?」
「そ、そうだけど」

 押し離すように桐野の胸から抜け出すと泉は顔を背けた。

「どうしたんだよ」
「………好き合ってても、そういう関係にはなれない」

 桐野はやや荒々しく泉の肩を掴むと、無理矢理自分のほうを向かせた。

「どうしてだよ」
「私の話、聞いたでしょ。私は普通の人間じゃない」
「そんなの俺は気にしない」

 身をよじり、それだけでは離れない桐野の手を掴んで力いっぱいに引き剥がす。

「そんなのなんて簡単に言わないで。前に、電話で話したこと覚えてる? 設楽って人と同類だって思ったら――」
「近づくな……か? だけどッ」

 俯いたまま、怖れていた事態に直面したことを泉は嘆いた。

 だから、桐野にだけは、知られたくなかったのだ。
 最後の最後まで枷となっていた理由は、そういうことだ。


「私の隣にいて、心休まると思う?」
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