キミは聞こえる
 恋人とは、好いた相手とは、きっとそういうものを言うのだろう。

 隣にいて、傍にいて、笑い合い、ともに語らい、穏やかに幸福を分かち合う――

 それが、恋慕う者同士のあるべき姿だ。

 そのあたりまえの幸せを、私は彼に与えてやることが出来ない。

「おまえは、ときと場合によってしか力を使わないんだろ? それなら俺は気になんてしないよ」
「今はそう言っても、これから先どうなるかは私にも桐野くんにもわからない」
「俺がおまえの力を気にするときが来るって言いたいのか」
「桐野くんを疑うわけじゃない。だけど、桐野くんはもう私の中にある秘密を、秘密自体を知っちゃったでしょ。きっと思うときはある。いま、心読まれたかな、って」
「代谷が不審な思いをするような後ろめたい感情を俺は絶対に持ち合わせないよ」

 絶対、のところを桐野は強調した。

 本心だろう。それは、わかる。
 桐野の言葉を信じないわけではない。

 有言実行、彼は真っ正面から私を受け入れ、愛を注いでくれるだろう。

 しかし、この先の未来、果てしなく彼の言葉が守られるかどうかは、どうしても彼を信じ抜く自信がない。

「そんなに俺が信用できない…?」

 それとわかるほど桐野は悲しげな顔をして肩を落とした。

「そんなことはないけど」
「けど……けど、なに?」

 泉は口の中で唸った。

 すこしだけ間を空けて、呟くように言う。


「……考えさせて」

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