キミは聞こえる
「あいつまたこっち見てるよ」
「ほんとだ。きもー」
泉の優雅なひとときを邪魔するやつらがいる。
「また見たー」
「やだぁ。マジできもいんですけど」
後ろから聞こえたいくつかの声が誰のことを言っているのか、泉は知っている。
ちらちらとやたらあたりを気にしながら弁当を食べている生徒。同じ列で泉の三つ前。
名前は知らない。掃除も一緒で、来週行われる勉強合宿も同じ班だけれど、名前はあいにくと覚えていない。
名前と顔を覚えるのは泉の不得意分野だ。
だから、挙動不審さん、と失礼ながら心の中で呼んでいる。
ロッカーの前で床に座りながら昼食を囲んでいる派手系の女子たちがくすくす笑っている。それでますます挙動不審さんは何度も首を回してこちらを向く。
耳障りと目障りでならない。けれど注意する気はない。どちらも自分とは関係ないものだと思っているから。
おそらく進学前から知られているせいで、まだ入学して一週間だというのにすでに嫌われているのだろう。
からかわれるべき対象として引き継がれたまま進学してきたのだ。
いやいやなんとも。ご愁傷様なことだ。
泉はまぶたを一度伏せて友香の母、美遥特製のサンドウィッチをかじった。
するとそのとき、ふと額のあたりに感じた視線。
顔を上げると、桐野が肩越しに泉を見ていた。
何? と尋ねるように視線を送り返す。
しばらくそうして、泉は小首を傾げた。待ってみたはいいけれど、桐野は何も言ってくる気配がないのだ。
それからも数秒彼の目を見つめ返し、ああ、と泉は納得した。
そうか、桐野君は私ではないどこかを見ているのだなと。
あんまりじっくり見てくるから勘違いするだろう。迷惑なヤツだ。
サンドウィッチをかじりながら、泉は教室ウォッチングを再開した。