キミは聞こえる
 おかしい。

 どうして桐野は話し合いに参加しなかったのだろう。

 あんなに騒ぐことが大好きなクラスの人気者なのに。

 部屋に女子が集まればいやでも賑やかになるはずなのにその場に行かないなんて。

 ―――もしかして。

(はじめから参加する気がなかった?)

 だとしたらどうして。

 自分が知る桐野のおよそ取りそうもない行動の意図が読めず、なぜだろうと思案を巡らせていると、

「泉ーお風呂行こう」

 千紗の顔が首の脇からぬっと現れて泉のアイスにかぶりついた。

「時間少なくなっちゃうよ。いそご」

 今度は響子が反対側からかぶりつく。

 不格好な砂時計のような形になってしまったアイスの残りを慎重に平らげてゴミ箱に入れると、両腕を千紗と響子に掴まれた。

 そのまま階段へと引きずられる。

 途中、近くに佳乃の姿がないことに気づいて慌てて足でブレーキをかける。

「どうしたの泉?」
「お風呂行かないの」
「そうじゃないけど。栗原さん、まだ来てないから」

 言いつつ肩越しに佳乃を見ると、

「……ああ」

 あからさまにトーンの下がった二人の声。

 露骨すぎる千紗たちのテンションの変化に思わずため息をつきそうになった。

 高校に上がる前から知っていて、ずっとあのちらちら攻撃を受けていたのでは確かに溜め込んだ嫌悪感も相当な量だと察するけれど、

 そこまで豹変するのは自分たちにとっても面倒ではないのだろうか。

 笑顔から一瞬で険しくなった彼女らの横顔を見て、今度こそ泉はため息をついた。

(面倒な学校に来ちゃったなぁ)

 泉は二人の腕から自分のをさりげなく引き抜いて、

「お風呂、行かないの。栗原さん」
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