キミは聞こえる
無理があるだろう、と友香の顔は言っていた。
口頭で言ったのでないことを除けば、それが紛れもない事実である。
翔吾の、サッカーがやりたい、好きなんだ、という思いの炎が彼の中に残っていたからこそ響いた泉の"声"。
翔吾の気を引きたいなら、サッカーの話を持ち出せばきっとなんらかの反応を返してくれる、と泉は結んだ。
それ以上の説明はなかった。
事実を事実として明かしているのに、他に言えることなどなにもない。
曇りのない眼差しから、嘘を言っているのではないことを感じ取ると、友香はもう泉を問いただすような真似はしなかった。
筋肉、骨供に異常はなく、多少体力に衰えはあれど、子供の身体なら三食バランスの取れた食事と、適度な運動を続ければすぐにも元に戻るだろうという医師の見立てどおり、
あれから翔吾はみるみるうちに少年らしい活発さを取り戻した。
もともと腕白な子供だったのだろう、いまでは時間の空いている若い医師を捕まえてはキャッチボールやサッカーに興じているという。
しかし、母親に受けた心の傷はそう簡単に癒えるものではない。
入院中の我が子の車いすを母親が押すところを見たり、消灯時間を迎えて独りぼっちの部屋が真っ暗闇に包まれたときなど、ふとした瞬間に心が絶望に苛まれ、身動きが取れなくなるらしい。
そんなとき、友香は泉を病院に呼び寄せる。
額を、頬を優しく撫で、そっと心で声をかけてやると、いくぶん楽になるようで、翔吾は笑みを浮かべる。
それを見て、友香は毎度不思議そうに首を傾げるのだった。
『どうしてなのかしらねぇ。私たちじゃあ、とてもああまで翔君を元気づけてやれないわ』
鈴森駅のホームに降り立つと、すぐ目の前に改札口が現れる。