キミは聞こえる
ふぅ、と深呼吸を一つ。
大丈夫、落ち着いた。
「母親が、歌手だったから。私も、歌手になりたかった」
シンガーソングライターだったの、と打ち明けると、桐野は目を剥いた。
泉の夢が芸能人であったことを知った瞬間以上の驚きようである。
「えっ、う、嘘! マジ!? 代谷の母ちゃんって歌手だったの!?」
「うん」
「名前は?」
「桐野君が知ってるとは思わないけど――」
死ぬ間際まで活動は続けていたが、なにせ世代が違いすぎる。
ましてやメディア出演の極端に少ない歌唱力勝負の人だったから、桐野が母の名を知っていようはずはなかった。
それでも桐野に求められれば話さないわけにはいかない。
「藤川雪乃」
桐野の目が大きく見開かれたまま固まる。
ああ、やはり知らなかったのだろう、と泉は思った。
知っている、とは言えないし、しかし娘である泉のことを思えば知らないと返すわけにもいかない、だが……
などと桐野の頭の中は現在凄まじい葛藤の渦だろう。
別に構わない、そう泉本人から肩を叩いてあげようとしたところで。
「す、すっげー! 藤川雪乃っつったら有名も有名、超有名の芸能人じゃん」
鼻息荒めに言う桐野、勢いに圧倒されて泉はやや仰け反りながら、そ、そうなの? と逆に問い返した。
「俺の母ちゃん大ファンだし。CD全部持ってんもん」
桐野母一人が大ファンでも超有名とは限らないと思うのだが。
「それは、どうも」
「えっ、てか母ちゃん、代谷の父ちゃんたちの結婚式に参加したとかどうのって前話してたよな? ってことはなんだ、母ちゃんたち、昔藤川雪乃に会ったことあんの!?」
「そうなるねぇ」
「愕き薄いなぁっ! 知ってるけど! あっ、別におまえが愕く必要はないのか」
ふうん、と泉はアゴを擦る。
大丈夫、落ち着いた。
「母親が、歌手だったから。私も、歌手になりたかった」
シンガーソングライターだったの、と打ち明けると、桐野は目を剥いた。
泉の夢が芸能人であったことを知った瞬間以上の驚きようである。
「えっ、う、嘘! マジ!? 代谷の母ちゃんって歌手だったの!?」
「うん」
「名前は?」
「桐野君が知ってるとは思わないけど――」
死ぬ間際まで活動は続けていたが、なにせ世代が違いすぎる。
ましてやメディア出演の極端に少ない歌唱力勝負の人だったから、桐野が母の名を知っていようはずはなかった。
それでも桐野に求められれば話さないわけにはいかない。
「藤川雪乃」
桐野の目が大きく見開かれたまま固まる。
ああ、やはり知らなかったのだろう、と泉は思った。
知っている、とは言えないし、しかし娘である泉のことを思えば知らないと返すわけにもいかない、だが……
などと桐野の頭の中は現在凄まじい葛藤の渦だろう。
別に構わない、そう泉本人から肩を叩いてあげようとしたところで。
「す、すっげー! 藤川雪乃っつったら有名も有名、超有名の芸能人じゃん」
鼻息荒めに言う桐野、勢いに圧倒されて泉はやや仰け反りながら、そ、そうなの? と逆に問い返した。
「俺の母ちゃん大ファンだし。CD全部持ってんもん」
桐野母一人が大ファンでも超有名とは限らないと思うのだが。
「それは、どうも」
「えっ、てか母ちゃん、代谷の父ちゃんたちの結婚式に参加したとかどうのって前話してたよな? ってことはなんだ、母ちゃんたち、昔藤川雪乃に会ったことあんの!?」
「そうなるねぇ」
「愕き薄いなぁっ! 知ってるけど! あっ、別におまえが愕く必要はないのか」
ふうん、と泉はアゴを擦る。