キミは聞こえる
「てことはだ。私たちが今こうして一緒にいるのって、実は案外それほど愕くようなことでもないのかも」

 ふと何気なく思いついて言ってみる、

「……な、なんて夢のない女なんだ」

 と、額を押さえ、桐野はどこか悲しげな声を洩らした。

「意味がわかりませんが」
「運命とか、奇跡とか、そういうのにおまえは心をときめかせたりしないわけ?」

 な、なんて乙女な発言なんだ……!

 恋もするし、ときめいたりもするが、占いや運命というものに一切の興味を引かない泉であるため、人と人の巡り合わせにも特にこれという非現実的な背景を信じたりはしない。
 
 さりとて、別にそういう類のものを否定しているつもりではない。


「出会うべくして出会った、って言えば、ちょっとは夢があるように聞こえる?」


 なっ―――と口を開けたまま、見る間に桐野の顔が赤く染まる。

 それにちょっとだけ笑う。


「私、おめでた婚じゃないから結婚式のときに母のお腹にはいなかったけど、親同士が知り合いなら―――桐野くんのお父さんの話では父さん、子供の頃は何度もこの町に出てきてたみたいだし―――父さんの転勤がなかったとして、私が高校からこの町に来ることがなかったとしても、

 何かしらの形で知り合ってはいたのかも」

 くすぐったそうに桐野は首を掻いて、

 ったく……おまえは不意打ちが絶妙なんだよ、

 とはっきりしない声で何かぼそぼそとこぼしている。

「若いうちでよかったな」
「年取ってからも恋は出来るんだけど」
「いや、まあ、そうだけど……。早いうちに知り合えてたほうが長く楽しくいられるだろ」

 それは確かに。
 二人ともじいさんばあさんだったら独身じゃない可能性もある。

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