キミは聞こえる
「桐野くんのお父さんたち、敢えて触れなかったみたいだから私も話さなかったの。隠してるつもりはなかった」
「いいよ。つーか、康士の前でばらされなくてよかった。あいつ口軽いから学校で速攻ばらしまくるに決まってるし」

 だから、ばらされても今の子供たちではイマイチぴんと来ないと思うのだが……しかしそう言われるのに悪い気はしないので二度は言わなかった。

「桐野くんが知ってるのが意外だった。お母さんはそうでも」
「しょっちゅう母ちゃんが聞いてるから俺も知ってる曲多いよ。なに、てことは代谷も歌えたりすんの?」

 尋ねる桐野の声に興味と、どこか期待のようなものを感じた。

「……友香ちゃんに請われれば、歌うけど」

 彼女のストレス発散方法はゲーム、買い物、カラオケである。

 悠士と行けばいいのにと思うのだが、なかなか時間が合わず、そのたびに暇人である泉が引きずり出される。

「俺に頼まれたら?」
「…………歌わない」
「えー、なーにーそーれー!」

 ものすごく不満げな顔をされて、泉も顔をしかめる。

「小さい頃の夢だったの。今は違う」
「友香姉ちゃんには歌ってやるクセに」
「……ふて腐れないでください。――それより」

 いきなり泉は声を低めた。
 意識を背後に集中させる。

「どうした、代谷?」

 怪訝そうに尋ねる桐野、眉をひそめ、静かな声で泉は応える。「……誰かに着けられてる気がする」

「えっ――」
「振り向かないで」

 鋭く言い放ち、泉は平静を装うよう目で促した。
 黙って桐野はアゴを引く。

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