キミは聞こえる
……誰よりも相手にして欲しいと願うなら。
みんなと距離を縮めたいと思えるなら。
佳乃は弱くなんかないのだろう。
ただ、今はまだすこし、行動に伴う結果が得られていないだけ。
それでも。
望む夢が現実になるように動き出せるなら、ちゃんと、その重い足を踏み出せるはずだろう。
「泉?」
「どうしたの。来ないんだからさっさと行こうよ」
急かす千紗と響子の声を無視して泉は佳乃を見つめた。
泉に返す佳乃の眸は大きく揺れ動いていた。
けれどその中に、確かにはっきりとした光があった。
(早く……ッ!)
きっと、出したい言葉は喉元まで来ているはずなのだ。
ならば今すぐすっぱりすっきり吐き出してしまえばいい。
言いたいことをため込むな。
それが出来ないから、もたついて、周りを苛立たせるのだから。
「……わ、わたし」
ようやく佳乃の唇が動いた。
「なに」
泉の声に一瞬びくっと肩を震わせた佳乃だが、しかしそこで詰まることはなく、
「わ、私も、行く。一緒に行っていい?」
泉は両脇に立つ千紗と響子を振り仰ぐ。
二人は驚きと困惑を混ぜたような複雑な顔をしていたが、桐野たちがいる手前、心に浮かんだ言葉は飲み込んだらしく、
「べ、別にいいんじゃない?」
「てか、栗原さんもウチのクラスなんだから今風呂入んないとあといつ入んの」
と、投げやりに言って踵を返すと、さっさと階段を上っていった。