キミは聞こえる
≪しつこい≫
≪さっき、代谷サンがやった繋ぎをこの身で体験して、このあいだ感じた強い波動はやっぱり代谷サンのものだったんじゃないかって気がしたんだよ≫
 
 聞き捨てならない言葉に、不本意ながら泉は問い返す。

≪なにそれ……波動?≫

 こいつは何を言っているのだろう。

 強い波動? そんなものが私の身体から発せられたというのか。

≪勘違いではないと思う。代谷サンが繋ぎに成功したのは、多分この前の試合の日だったよね。それも、午後を少し回った頃じゃなかったかな――≫

 試合中、まさにゴールを決めようとした瞬間のことだという。

 どん、と設楽の胸の奥を強い衝撃波のようなものが襲った。

 それで手元がいささか狂い、ゴールを逃した。

 ≪繋ぎ≫が出来るようになったのはサッカーの試合会場でのこと。

 荒れ狂う桐野の精神を落ち着けさせんと彼の心と己の心を≪繋い≫だ。

 あのときから、泉は設楽の言う≪繋ぎ≫とやらが出来るようになったのである。

 波動とやらが泉によるものかはともかくとして、設楽の言う日にちと時間帯は確かに合致している。

≪一瞬何が起こったかわからなかった。周りも俺のコントロールミスに驚いてた≫
≪周りの選手に影響はなかったの?≫
≪その波動に冒されたのは俺だけだったようだよ。だからこそ、周囲も何があったんだって顔して俺を見た。一旦、ベンチに引っ込められて、タオルを被って考えて、これは代谷サンだな、と思った。そしていま、確信した。さっき代谷サンから感じた繋ぎの感覚と、あの波動は似てる。もちろん、威力は違うけれどね≫
≪……確かに、試合の日、私ははじめてあんた以外の人と心を繋いだと思う。だけど、さっきげって声を上げたとき、私はなにもしてない。波動なんて、人をロボットとか、アニメのキャラクターみたいに言わないで≫
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