キミは聞こえる
≪人に訊いておいて無視? ハッ、いい度胸してんじゃな――≫
≪そんなことが起こり得ると思う?≫
≪……は?≫

 遮るように言って、設楽はいささか険しい顔を泉に向けた。


 自分の心のシャッターを開くのは、それなりの力と、なにより意識が必要不可欠だと設楽は言う。


 だから、泉のように無意識に≪繋ぎ≫を行うのはすなわち――

 あり得ない、と。


≪のぞきは、自分や周りの感情が昂ぶってるときなんかに勝手に心が吸い寄せられることがあるけど、繋ぎは行使する側が意識せずには無理だ≫

 読心術と一口で言っても、出来ることには条件があり、ある程度の制約がかかっているということだろうか。


≪力が周囲にばれてしまわないよう俺たち"出来る人"の心には常にシャッターがかかってる≫
≪それは私たちに限らずどの人間にもかかってるでしょ。私たちはそこをこじ開けて中をのぞいてるんだから≫
≪だけど代谷サンは、その自分の心を開くのにずいぶんと悩んでいたよね。それこそ、俺に助言を求めるほど≫
≪………………そうだったかしら?≫

 とぼけると設楽は、忘れたとは言わせませんよ、あの二人きりの時間、と言ってにこっと笑った。

 軽く殺気立つ。

 安田の視線を感じ、泉は慌てて前に向き直った。

「眠たげにしている生徒が多いため立たせたが、それでも気を抜いている者がちらほらと見受けられる。大会の練習で各々忙しいのはわかるが、疲れを授業にまで持ち込むのは――」


≪自分の心をのぞくことが、実は人間、一番難しいことなのかも知れないね≫


 教師が真面目な話をしていると、いきなり設楽までもが真面目な言葉を呟いた。

 真面目なのに気色悪く感じるのは、泉の中でこいつが汚物認定されているからであろうか。

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