キミは聞こえる
≪……なに、いまの。格言ですか≫

 設楽は咳払いをして、≪ともかく≫とステージに目を向けた。

≪コツを掴んで習得し、かつ俺たちが使おうと自発的に意識しない限り、俺たちに繋ぎの技は使えない。俺はそう思ってる≫

≪だから、私があんたに無意識に言葉を送り込んだのだとすれば、それは普通ならあり得ないことだと?≫
≪うん。……ちゃんと土台が出来ている状態だから、たいした意識もせずに声を送り込むことができただけなのかもしれないけど≫

 実際、君が現れてからは俺もほぼ意識せずに声を送っているから、と設楽は言い添える。

≪ほぼ、ってことは一応の意識はしてるの?≫
≪それはまぁ、ね。はっきりとした意識の切り替えはしていない、ということだよ≫
≪じゃあ、話しかけようっていう意思はあるわけ?≫

≪もちろん。のぞきたいだけなら俺のシャッターは開かない。開かせない、とも言えるかな。感覚的なものだけどね≫

≪それが、あんたの言う秘匿的な作用?≫

 力自身が、己を守るためにそうさせるのだろう、と設楽は言った。

 その力がいままで堅固に泉の心をガードしていたのか。

 泉の心の声がうっかり外部に漏れてしまわないよう、泉の力が外部に知られてしまわないようにするため。

≪そう。俺の場合、俺が相手の心をのぞいている間、繋ごうという意思が生まれない限り、心は絶対に開かない≫

≪実はふとしたときに開いて、周りに聞かれちゃってるとかは?≫

 設楽は不敵の笑みを浮かべた。

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